「優花ぁ、昨…」
「ああぁ~ストップ、みなまで言わないでよ~」
朝、顔合わすなり加奈が話しかけてきた。
昨日のカラオケのことに決まってる…
私は慌てて両手で耳を抑えた。
うぅ、恥ずかしいよぉ…
「でも、精神科実習って怖いと思ってたけど意外に楽しいね♪」
加奈が嬉しそうに話す。
うぅ、そんなことないよ。
私は不安いっぱいだよ…
「ちょっと、痛いってばぁ。」
足取りの重たい私の手を、加奈は気にせず引っ張る。
「早く早く。」
「はいはい。ちょと待っててば。」
そうして、精神科実習二日目が始まった。
朝の看護師さんの申し送り。
気になる内容があった。
ラーシャさんが夜、全然眠れてないらしい。
睡眠薬を二回追加しても落ち着かなかったって。
精神科の患者様はほとんどの人が睡眠薬を内服している。
精神の安定という事を考えると、夜はしっかり睡眠とれる事が大切らしい。
「はぁー…しっかし毎年、季節の変わり目に調子悪くなるな。」
「今日は注意ですね。」
看護師さんの会話。
手に持った筆記用具で頭をポリポリと掻いてる。
看護師さんの言うことが、どうしてもピンと来なかった。
ラーシャさんが一晩眠れなかっただけなんだよね?
そんなにめんどうなことなのかな?
…だけど、その考えはすぐに払拭されることになったんだ。
「おはようございます。」
日課の朝のラジオ体操の時間。
宮川さんもラーシャさんも出てきていた。
あっ。
…ラーシャさんの顔つきが昨日と全然違う。
歩き方も落ち着きがない。
キョロキョロと周りを気にしてた。
宮川さんは、ラーシャさんの側から離れてる。
何か嫌な予感がするよ…
ラーシャさんが私に気づくと駆け寄ってきた。
「ねぇ優花ちゃん、電波が飛んデルよ。気をつけて。見張られテル。」
「電波?」
早口に話しかけてきたラーシャさん。
「実は私は天皇の血筋なノ。…ほら神の声が聞こえエるでしょ?神様が私が狙われテルって教えてくレてるわ。」
うううぅ…
顔つきが険しい。
決して冗談を言っている雰囲気ではない。
思わず私はこめかみを抑えてた。
「あ、あははは。ラーシャさん、電波なんてないですよ。狙われてないから大丈夫です。」
えっ?
ラーシャさんが私に顔を突き出した。
思わず後退りをした。
「何?なんで嘘言うの?さてはあなたはスパイねっ!!」
両手を腰にあてて、早口でまくし立てる。
顔つきが更に険しくなる。
やだ…
こ…怖いっ
「いや、ラーシャさ…」
「何が狙い?みんなで私をどうするつもりなの?!」
きゃあっ!
私は思わず座り込んだ。
そのときだった、突然殴りかかってこようとしたラーシャさんを看護師さんが数人で抑えつけた。
「あーーーーっ!!殺されるぅーーーだれかあああ!!」
グランド中に大きな声が響き渡る。
ラーシャさんは看護師さんに注射されると、そのまま連れていかれてしまった。
私は震えが止まらなかった…