あ、河田さん。
河田さんが立っていた。
病衣を着てベッド柵に両手で捕まり、手術前に足にあった錘は除けられていた。
…良かった。
手術が無事に終わったんだね。
もう立てれるようになったんだね。
って、んなわけない!!
私は見間違いかと思い、思わず目をこすった。
やっぱり河田さんはベッドの横で立っていた。
立っているのがやっとらしく、膝が震えていた。
よく見ると、点滴を引っ張り抜いてゴミ箱に捨てて、布団や病衣は血だらけ…
「ちょっと、あんた警察呼んでよ。」
河田さんが私にむかって一言そう言った。
表情は固く目つきは険しくなっていた。
「きゃあぁああ!」
慌ててナースコールのスイッチを押して看護師を呼んだ。
駆けつけた看護師さんも悲鳴をあげる。
そりゃそうだ。
人工骨頭置換術というものをおこなったばかりで体重は少しずつかけていく。
また、手術したところはまだ安定してなく抜けやすくなっているため、大事だった…
「すいませんっ。」
戻ってきたお嫁さんが、顔を真っ白にして頭を下げた。
「手術後だから、きちんと付き添ってたんです。今、少しだけ電話しようと離れてたん…」
「ちょっと、何するんだい。誰かぁー!助けてー!殺されるーーっ!!」
言葉を遮るように河田さんの声が病室に響いた。
安全の為、ベッドに体を固定させてもらうと河田さんは大声で叫び始めたんだ。
顔つきが変わってた。
手足をバタバタし、お年寄りとは思えない力で抵抗しようと興奮してた。
「お義母さん…なんで…」
豹変した姑の姿に戸惑いとショックのあまり、言葉を失ったお嫁さん。
私は、一度ナースステーションの方へ状況説明に向かった。
「大丈夫だ。よかった。」
先生は両足の太ももをパンと叩き立ち上がった。
レントゲン撮ったが、幸い異常はなかった。
主治医の言葉に胸を撫で下ろした。
今回のことは珍しいことじゃなくて、お年寄りは環境の変化に弱いため混乱することがあるんだ。
他に原因として、
寝たきりによる脳への刺激がへること
昼寝からの昼夜逆転
術後は麻酔による影響
点滴や酸素チューブによる拘束感
こんな原因でも精神障害を起こしやすい状態にある。
それが原因で大事な管を引っ張り抜いてしまったり、転んで大怪我してしまう事もあるため用心が必要。