二月七日(水)
厳しい状態であることを親戚一同に連絡した。
そのせいか部屋いっぱいに人が集まってる。
「大変ねぇ」
「大丈夫なの?」
「意識はないの?」
人が来る度に同じ言葉、挨拶が繰り返される。
作り笑いするので精一杯になる。
どれだけ同情の言葉をかけられても、
どれだけ優しい声で慰められても
結局は他人事。
…そんなふうに聞こえてしまう。
私の精神状態のためかな…
そんなふうに感じるなんて最低な女だよね。
夜になって人が少なくなる。
静かな部屋で主人と2人っきり。
機械の音が響く。
耐えられなくなってテレビのスイッチを入れた。
別にテレビを見たいわけではないんだ。
だけど主人を見つめれずただボーっとテレビの画面を見てた。
何をしなくても流れていく時間。
また訪れる朝。
何かをしたくても何をしたらいいのかわからない。
管だらけの主人に触れる事さえ恐ろしくてできない。
頭がボーっとする。
立ち上がると目が回る。
はぁー…
重たい体を無理に持ち上げ病室を出てとロビーへと足を運ぶ。
百円硬化を自動販売機に入れ少し悩みながらコーヒーのボタンを押した。
「疲れたなぁ…」
独り言が自然と出てしまう。
ゆっくり腰をおとし一口コーヒーを含む。
あれだけ好きだったコーヒーなのにムカムカする。
胃が痛い…
だけど主人はもっと辛いんだろうな。
弱音さえはくことできないし。
せめて傍にいてあげないとね。
私にはそれぐらいの事しかできないから…
正面から見た事のある男性が歩いてくる。
あれ?
貴志さん?
「あ、久しぶり。」
私に気付いて、男性は手を挙げた。
主人の親友で幼なじみ。
悩みがあるとき私も相談したりする。
「ごめん、こんなに悪いなんて知らなかった…」
貴志さんの目は真っ赤になっていた。
私は何もしゃべる事ができずただ横に首を振った。
私の頭をクシャクシャっと撫でて、
「また来るよ。」
そう言うと背中を向けて歩いていった。
かける言葉も浮かばず見送った。
クシャクシャの顔を見られなくないのもあった。
病室に戻るとテレビはドラマが流れてた。
私、テレビを点けっぱなしにしてたんだ。
そんな事にも気づかった。
ドラマみたいな経験したいって確かに思ったけど…
悲劇のヒロインなんて演じたかったわけじゃないよ。
テレビの中で悲劇のヒロインではなく友人に裏切られた悲劇の主人公が泣いていた。
主人の目にも何故か涙が流れていた…
ドラマのエンディングが流れる。
せめて私たち家族の物語はハッピーエンドであることを強く…強く願うよ。
神様、お願いします…